はにわの物語 ―はにわさん―

昔あるところに大きくて優しい埴輪がいました。
埴輪は毎日空を眺めていました。
空が白くなって、赤くなって、それがずっとずっと繰り返されても、埴輪は空を見ていました。

お日様がとても高くなった季節のことでした。

埴輪のまわりに赤い服を着た人々が集まり、何か話をしています。
そのうち何人かが、埴輪に水をかけ、汚れを洗い流してくれました。

埴輪は汚れていても全然気にならないのですが、洗ってくれることもまた気にならないのでした。

しばらくしてすっかりきれいになった埴輪に、飾り付けがされました。
そしてその周りを皆が踊ってまわるのです。

埴輪は、最初こそ興味がなさそうにそれを見ていましたが、人々の楽しそうな顔を見ているとなんだか自分も楽しくなってきました。
そして埴輪は聞きました。

「今日はなんの日なの?」

赤い服を着たこどもが答えました。
「今日は8月20日、ハニワの日だよ。」
「ずっとひとりで寂しそうにしているから、年に一度お祭りをすることにしたんだ!」

埴輪は、ただの語呂合わせだなと思いましたが、自分を思ってくれる気持ちが嬉しくなりました。
そして日が暮れる頃、みんなは帰っていきました。

それからしばらくしたある日のことでした。

埴輪が空を眺めていると、今度は青い服を着た人々が埴輪の周りに集まってきました。
今度は、埴輪に飾り付けをしたり、まわりで踊ったりすることはありませんでした。

青い服を着た人々は、とてもいい匂いのする煙を立て、そして埴輪に寄りかかるように輪になって座りました。
ただそれだけのことでしたが、埴輪にはとても気持ちのよい時間でした。

そして埴輪は聞きました。

「今日はなんの日?」

すると青い服を着たこどもが答えました。
「今日は8月28日、ハニワの日だよ。」
「ずっとひとりで寂しそうにしているから年に一度お祭りをすることにしたんだ。」

埴輪はその気持ちをとても嬉しく思いましたが、その一方で先の赤い服を着た人たちのことが気になりました。
そして日が暮れる頃、青い服を着た人たちは帰っていきました。

それから何度も日が沈み、まわりが真っ白になり、そしてまた緑になった時のことでした。

埴輪が空を眺めていると、大きな声がしてきました。

「8月20日が正しい!」
「いや、8月28日こそ正しいのだ!」

どうやら埴輪の不安は的中したようです。
赤い服を着た人々と、青い服を着た人々が言い争っていたのでした。

やがて人々は埴輪の元へ集まり、それぞれ自らの正当性を説き始めました。
中には小競り合いを始めるものまで出てくる始末。
困った埴輪は、大きく深呼吸をしました。

すると、不思議なことにさっきまでの争いがピタリと止まり、あんなに争っていた人々が仲良く肩を組んでいるではありませんか!

そして一人の男の子が埴輪を指差して言いました。
「埴輪が光っているよ?」

男の子が言うとおり、空っぽの埴輪の中がぼんやり光っていました。

埴輪も知りませんでしたが、どうやら埴輪が深呼吸をすると、まわりの人々の苦しみや悲しみ、怒りなどを吸い込んでしまうようなのです。
そして吸い込んだそれが埴輪の中でぼんやりと光るのでした。

誰かが言いました。
「8月20日から8月28日まで、ぜんぶ埴輪の日にしよう!そうすればどちらが正しいかなどといった争いはおこらないじゃないか。」

赤い服の人たちも青い服の人たちも、この意見には大賛成です。
そして埴輪にそれでよいか問いました。

すると埴輪は答えました。
「みんなと楽しく過ごせるならボクはそれで嬉しいよ。そしてそのお礼に、来てくれたみんなの苦しみや悲しみ、怒りや不安を吸い取ってあげる。」
「不安だけじゃなく、望みや願いも一緒に吸い取って神様に届けてあげるよ。」

人々が喜んだのは言うまでもありませんでした。

そしてその年の8月20日。
人々は埴輪の周りに集まってきました。
埴輪をきれいに掃除する者、飾り付けをする者。
さっそく願い事をする者までいます。

28日が近づいてきた頃、埴輪の中は人々の思いでいっぱいになりました。
そこで埴輪は言いました。

「今からこの思いをお空へ飛ばすよ。でもその前に一つだけ手伝って欲しい。」

「ボクの体を今年の恵方に向けてほしいんだ!」

そう言われ、人々は埴輪の向きを変えました。
すると…

埴輪の中にあった人々の思いが、いろんな色のたくさんの泡になってのぼっていきました。
それはとてもとてもきれいでした。

埴輪が小さな声で言いました。
「みんなの思いはちゃんとお空へ届いたよ。そしてボクはちょっと疲れたからもう寝るね…また来…年…」

そう言い残して埴輪は深い眠りにつきました。

それから毎年のこと。
埴輪は8月20日になると目を覚まし、人々と楽しく時間を過ごし、みんなの思いをたくさん聞きました。
そしてそれはきれいな泡になってお空にのぼっていくのでした。
そして28日に眠りにつくようになりました。

やがてこのことが周辺に伝わり、今日の恵方埴輪として定着していったそうです。

おしまい