昔、あるところに、大きな、はにわがいました。
この、はにわの前には、いつも、たくさんの人々の、行列が出来ていました。
「また今日も、行列が出来てるやんけ・・」
はにわは、深いため息をつきました。
人々は、いつも、ひっきりなしに、このはにわに、悩み事や、願い事を話します。
最初は、親身に聞いていた、はにわも、だんだんと面倒くさくなり、いつしか適当に、アドバイスを送るように、なりました。
「中々、子宝に恵まれないのですが・・」
と言う人には、
「乱交パーティに参加したらええねん!」
「親孝行として、両親を旅行に連れて行きたいのですが、どこに連れて行けばいいですか?」
と言う人には、
「ヌーディストビーチに、連れて行ったらええねん!」
「禁煙したいのですが・・」
と言う人には、
「口を完全に、針と糸で、縫ってまえ!」
こんな風に、完全にやっつけ仕事丸出しの、ナメくさったアドバイスをしても、人々は、連日のように、行列を作り続けました。
まるで、タピオカミルクティーの店の前に並ぶ、インスタ映えを狙う、バカ女のそれです。
ある日、とうとう、はにわがブチギレてしまいました。
「もうええわ!お前ら!
毎日毎日、しょーもない!
こんなんが、ずっと続いたら、ノイローゼなるわ!
もうこれからは、期間を決める!
ワシがお前らの、悩みや、願いを聞くんは、8月20日〜28日の期間だけや!
何で、8月28日までか分かるか?」
人々の中の、一人が言いました。
「8月28日は、キング牧師が、有名な“『I have a dream”(私には夢がある)』の演説を行い、人種差別の撤廃と各人種の協和を、祈った日ですからですか?」
はにわは、本当は、
『8月28日は、はにわと、読める』から、
という、ただの語呂合わせで、8月28日までとしたのですが、『キング牧師の演説の日と、同じ日やから』っていう理由にした方が、どことなく、偏差値が高そうだし、オシャレなので、
「・・お、おう。そうや!君、よう分かったな〜!」
と話を合わせ、畳み掛けるように、
「ワシが、その期間に、来てくれたお前らの、苦しみや悲しみ、怒りや不安を吸い取ったるしやなー、不安だけやなくて、望みや願いも一緒に吸い取って、神様に届けたるわ!」
人々が、喜んだのは、言うまでもありませんでした。
そして、やって来た8月20日。
人々は、はにわの周りに集まり、悩み事や、願いを、たくしました。
28日が近づいてきた頃、はにわの中は、人々の思いでいっぱいになりました。
「今からお前らの思いを、神様のとこまで、飛ばしたるから、ワシの体を、今年の恵方の方に向けてや!」
そう言われ、人々は、はにわの向きを恵方の向きに変えました。
すると・・・、
はにわの中にあった人々の思いが、いろんな色の、たくさんの泡になって、のぼっていきました。
それは、とてもとてもきれいでした。
一仕事終えると、はにわは、言いました。
「お前らの思いは、ちゃんと神様に届いたで〜。
ふぅ〜。
ワシは、疲れたからもう寝るわ〜。
また来年も頼むで〜」
そう言い残して、はにわが、深い眠りにつこうとした、その時です。
これまで、はにわが、適当に、アドバイスをして来た人達が、怒り心頭で、はにわの周りを取り囲みました。
「おい!アドバイス通り、嫁と乱交パーティーに参加したら、嫁はんが、誰の子かも分からんガキ、身ごもったぞ!」
「アドバイス通り、両親をヌーディストビーチに、連れて行ったら、両親の全裸を、見る事になって、目が腐りそうなったわ!」
「モゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴモゴ・・」
と、何やら文句を言ってるのは、禁煙するために、口を針と糸で、縫い合わせた人です。
「おい、はにわ!
何で、あんな的外れなアドバイスばっかしたんや!お前の目は節穴か?」
はにわは、答えました。
「ワシ、はにわやからのう。
両目は節穴やで?」